俺が中学生のとき、地元じゃ有名な廃学校(以下、旧T学校)があったんだが、数少ない心霊スポットとして学生が良く肝試しにきてた。 

かくいう俺も、友達と良く行ってたんだ。 

で、中学三年の夏。蝉が絶え間なく鳴いてるくらいには暑い夏だった。俺は結構成績は良い方だったし、高校の受験勉強もかなり真剣にやってたんだが、ある日、受験勉強の息抜きもかねて、学校の友達二人(仮にAとB)と俺の男三人組で旧T学校行こうって話になった。 

まあ言い出しっぺはAで、俺もノリノリだったんだが、Bは元々ビビりな性格もあってはじめは反対してた。 

そこでAが「じゃあ多数決で決めよー」とか言い出して、まあ結果はわかる通り、B含めて三人でその週の日曜日に旧T学校へ行くことが決定したんだ。 
で、どうせならっていうんで、良くある使い捨てカメラをジャスコで一個買ってから旧T学校に忍びこんだんだ。

旧T学校はとにかく不気味だった。 

なにが不気味かって、まず立地。旧T学校は、町から少し坂を上った外れみたいなとこにあるんだが、その辺には地元じゃ有名な進学校とか、小学生がよく集まって遊ぶ児童館なんかがあるし割りと人の生活感はあるような場所なんだ。 

なんだけど、その旧T学校の周りに限っていえば、森林に囲まれてるのもあってか、なぜかめちゃくちゃ静かで、その空間だけ切り取られた異世界みたいな雰囲気だったんだ。 
まあ立地はそんな感じで不気味だった。 

だけど、もっと不気味だったのは学校そのものだった。

中に忍びこんだ俺たちは、「こえー」とか、「ここカラーギャングとか良くいるらしいぜ」とか、まあふざけながら校舎の中へと入っていったんだ。Bはずっと怖がってたが

時々、教室やら廊下やらを持ってきたカメラで写真を撮りながら俺たちは校舎のなかをどんどん進んだ。 
で、一階、二階と散策しまくって、三人とも疲れが顔に出てきたころ。 
Aが急に「おしっこいきたい」とか言い出した。 

そしたら、Bが「じゃあもう帰ろう、帰り道にあるコンビニで行けばいいじゃん」と急に明るい声になって言った。まあ来たくなかっただろうし、来てからもずっと怖がってたから、帰るチャンスだと思ったんだろう。 
俺もちょっと強引に連れてきちゃったかな、っていう罪悪感もあってBに乗った。 

俺「まあもう大体まわったしな、帰るか」 

B「な!帰ろう帰ろう」 

けどAは違った。

A「え、いいよ、まだ屋上とかいってないし、回ってないとこ他にも絶対あんじゃん。 
俺、この校舎のトイレでするからいいよ、水通ってないけど小便器はあるし」 

そういいながら、俺らが言い返す間もなく近くのトイレに入ってった。
 

俺はさすがにその態度はないだろ、って思ったけどAはそんな俺とBを気にもしてなかった様子だった。 
今思えば、あのとき引き返してれば良かったんだ。 

まあ、廃墟なんで、トイレのドアなんか壊れてなくなってて、Aが立ちションしてるとこをBと俺で後ろから眺めるだけだった。 

そしたら、急にAが笑いながら「おい、写真とってみろよw 
トイレだしなんかいるかもしれねーじゃんw」 
とか言い出すから、俺がちょっと嫌みも含めてAが立ちションしてるとこを後ろから何枚か撮ってやった。 

俺「はい、チーズ(カシャッ 。もっかいとりまーす(カシャッ ……」 

A「おい、何枚とんだよwww」 

俺「うるせー、ションベンなげえお前がわりいんだろ」 

まあそんなこんな言って、Aはトイレを済まし、俺たちは先に進むことにした。Bは、Aが帰る気が無かったのが丸わかりだったからか、なにも言わずに後ろからついてきた。

で、俺たちはある部屋にたどり着いた。 

それまで散策してきた校舎内は、どこの教室であったり廊下であっても、ガラスが割れてたり、草が生えてたり、とりあえずよくある廃墟の中、みたいな感じで汚かった。 

それにも関わらず、その部屋だけ赤い絨毯みたいなのがひかれてて、あからさまに綺麗なんだ。 
まるでまだ使われてる部屋かのように。 

俺たちは、全員その部屋のなかに入ってから黙ってしまった。なにかここには良くないことがある気がする。なぜか分からないけど、とにかく不気味だ。今すぐに帰らなければ。 
お互い何も口には出さなかったが、あの時は三人とも黙ったまま共通の認識を持った。 

三人で黙ったままその部屋を出て、無言のまま歩いて校舎から出た。 

学校の門から出たあと、Aが急に「逃げるぞ!」と言って、俺たち三人とも乗ってきたチャリに乗り、全力で坂を下って市街地のコンビニまで逃げた。 

コンビニまで逃げた俺たちは、少し落ち着いてからコンビニでジュースを買って、Aが「近くの公園で話そう」と言ったので、公園まで行き、さっきまでの話をはじめた。

やめよう。」 

A「ああ、やばかったな、もう行くのやめよう。しかし、なんであの部屋だけあんなに綺麗だったんだ??気味悪いよ。」 

B「…」 

俺「まるでまだ誰かが使ってるみたいな部屋だったな。」 

B「二人ともなに言ってるの…?」 

俺・A「え?」 

B「…あの部屋、どんな匂いした??」 

俺「匂いって、そんなん特別したか?」 

A「いやあ、匂いなんか何にもしなかったぞ?」 

B「…焦げ臭かった。焼き魚が焦げちゃったときみたいな匂い。」 

A「はあ?おいB、怖がらせんのもいい加減にしろよ。」 

俺「おいA、そんな言い方ないだろ。」 

A「だってよ、匂いなんk」 


B「あの部屋は綺麗なんかじゃなかった!!」 


急にBが大きい声をあげるから、俺とAは二人とも ビビった。

俺「…どういうこと??綺麗なんかじゃなかったって??」 

B「そこら中に落ちてたじゃないか!!」 

A「落ちてた??なにが。赤い絨毯みたいなのひいてあって何にも落ちてなかったぞ。」 

俺「俺もそう思うけど。B、どういうことだ?」 

Bはそのまま泣き出してしまった。 
中学生になってから友達が泣くところなんてあんまり見たこと無かったから、本当に驚いたし、何がなんだか分からなかった。 
同時に「やばいことになってしまった」とも思った。 

とりあえず、Bが泣き止んでから、三人でとりあえず今日は帰ろう、という話になった。 

次の日の月曜日、Bは学校に来なかった。 
俺はAと一緒に担任になぜ休んでるかを聞きにいった。 
担任いわく、Bは右腕に油がかかってしまい、ひどいやけどを負っていて、今はとりあえず病院に入院していると。 
で、ぜひ見舞いに行ってやってくれ、と言われ、その病院と病室を教えてもらい、俺とAはその日の塾をさぼり、放課後に病院に見舞いにいった。
 

病室に入るとBは窓の方を見ながらぼーっとしてた。

俺「おお、B。大丈夫か??」 

A「心配した。火傷だってな。はやく学校来れるようになって、受験がんばろうな。」 

俺たちがそういうと、Bはベッドに寝たまま言った。 

「お前ら、火には十分注意しろよ。 
火傷は痛いからな。」 

俺とAは顔を見合わせると、ああ、と言い、頷いた。 

そのあとは、一時間くらい、しょーもない、くだらない話をして過ごした。 

で、俺とAがそろそろ帰ろうか、と言いBに「またな、お大事に」と告げ、病室を出ようとすると、Bは「火には気をつけろ。」と追い討ちのように言い放った。 
そうして、その日、俺とAは病院をあとにした。 

で、その次の週の出来事。 

Bは、火傷自体はひどかったらしいが、わりと早く退院してもう学校に通い始めていた。 

俺とBが朝はやく学校にきて、二人で社会の問題を出しあっていると、Aがすごい形相で教室に入ってきた。 

俺「おはよう、どうしたんだよ、A。」 

A「これを見てくれよ。」 

そういってAがカバンから封筒のようなものを取り出し、その中に入った20枚程の写真を机の上に出した。

B「なんだ?あのときの写真現像にし行ったのか??」 

A「そうだ。一応、カメラは俺が最後に持ってたし、捨てられず、かといって手元にずっと置いとくのもあれなんで、現像しに行ったんだ。」 

俺「それで??」 

A「この写真見てくれよ。」 

そういってAが取り出したのは、あのときトイレで撮った写真のうちの一枚だった。 

俺とBはそれを見てぎょっとした。 

Aが立ちションしているトイレの床には、焦げた肉片のようなものが至るところに落ちていたのだ。 

B「…これだ、これなんだ、俺が見たのは。」 

Bがそういうと、Aは写真をそっと閉まった。 

次の日、Aは学校に来なかった。 
右腕を火傷したらしい。 

俺はそれから一度も廃墟に行ったことはない。