俺と姉貴は中二の頃まで一緒の部屋だった。 
もとより中の悪い俺たちは口をきくことすら稀だった。 
中学二年生、俺の足の傷に変化はさほどない。 

その日、いつもの時間帯に起き、立とうと 
した時だった。急激に足に激痛を感じ、驚き 
倒れてしまった。家中にまで響き渡る勢いだった。 
駆けつけた母が来て部屋の明りをつけると 
布団は血で染まっていた。 
そして、その血は俺の脚の傷からだった。 
今までに血は何度も出ているが、この量は 
あの四年生以来の量だ。 
俺も母も驚き、暫くは動けなかった。 
俺はその日学校を休んだ。 
体調が悪いわけでも無いので、休めた分 
嬉しかったが、それと同時にやることが無かった。 
父は仕事。母は買い物。 
家にいるのは俺と、眼が見えなくなった 
婆ちゃんの二人だけだ。 
だが、婆ちゃんも寝たきりで話すのも困難だ。 
悩みに悩んだ末、結局は昼寝をした。
ゆっくりと目が冷めた。 
時計を見ると既に七時。寝すぎた。 
昼寝の特有の頭痛が起きる。部屋の明りをつける。 
暫くボーッとして下へ降りる。 
母は既に夜の仕事へ行った様だ。 
茶の間にはご飯の支度がしてある。 
一人でご飯を食べていると姉が帰宅した。 
姉は帰るといつもすぐさま自室(俺と同室だが)に向かい、 
一時間くらいしたら下に下りてきてご飯を食べる、 
という極めて変な奴だった。 
だが、父が帰ってきて、すでに十時だというのに 
一向に下りてくる気配が無い。 
俺はおかしいと思い、姉の様子を見に行く事にした。 
扉を開けると、姉は椅子に座って本を読んでいた。 
そして、俺の顔を見ると、急に立ち上がって 
俺の腕を掴んで俺を椅子に座らせた。 

わけのわからない行動に混乱していると、 
姉が物凄い形相でキレ始めた。 
姉はヒステリックだ。それも異常なまでに。 
姉が高校に入ってからはほとんど精神科へ 
行っていたくらいだ。 
そして、俺も我慢できなくなりキレると、姉が 
こう言ったのだ。 
「手前のせぇで昨日は眠れなかったのに何 
 逆ギレしてんだクズ野郎!」
訳が解らなかった。というより、眠れないって言うのは 
こっちのセリフだろう。 
こっちはいつもあんたが夜中まで勉強してるから 
明りが眩しいからアイマスクまでしてるってのに。 
だが、姉のいう話は本当にチンプンカンプンだった。 

姉が寝ていると俺が起こしたらしい。 
姉は何事かと思い俺を見ると不思議に思った。 
俺は正座をしていて、白目を剥いていたそうだ。 
そして、姉が擬視していると、俺は何かを話し始めた。 
だが、姉は俺が何を言っているのか理解出来ないうえに、 
起こされたと言う怒りで「聞こえねぇよ!」と言うと、 
俺は舌打ちを打ち、そこで崩れ落ちたように眠り始めた 
そうだ。 
姉はそれを話し終えるとずかずかと下に下りていった。 
俺は身に覚えの無い話をされて、唖然としていた。 
寝ぼけていたのか? 
けど、寝つきはいいし、寝起きもいい。 
ハッとした。 
姉のさっきの言葉だ。 
「白目を剥いていた―」 
有り得ない。それだけは有り得ない。 
何故なら俺はいつもアイマスクをしている。 
それに、何故それを確認できたんだ。 
夜中なのに。 
暗闇の中、何故体位まで解ったんだ。
俺も姉も無言のままその日は就寝についた。 
いつもの事だからあまり気にはならない。 
だが、さっきの姉の話の内容を考えていると 
やはりなにかゾッとするものがある。 
何を伝えようとしていたんだろう。 
それは本当に俺だったのか。 
そして、今朝脚が血まみれだった事を思い出し、 
コレが原因だったのかと思い、納得 
することにした。 

余談だが、その日から姉は時々変な声が 
聞えるようになった。 
その変な声とは、俺がいっていたらしき言葉だ。